弁護士ブログ

【労働問題・企業法務】新規参入者や労働者の視点から考える「退職代行」なる業務について

【POINT】
①通常,労働者が会社に退職を伝えてから2週間で辞めることができること
②業者による退職代行は違法となる場合があること
③業者による退職代行では会社との交渉が必要なトラブルを解決できないこと
④弁護士に退職代行を依頼する費用をサポートする制度等があること

1 退職代行というサービス

 最近,とあるネット記事で退職代行というサービスの存在を知りました。
実際,インターネットで検索すると,いくつかの退職代行に関するホームページ(※1)を見つけることができます。
 そして,これらのホームページによると,結構な数の方々が退職代行を利用されているようです。

2 退職やその代行の基本

 このサービスは,〈労働者に代わり会社に対して退職の意思を伝える〉というものであって,何ら複雑ではありません。このことさえ押さえれば,誰でも退職代行を行うことは可能でしょう(※2)。
 しかも,日本の雇用慣行(※3)の下だと,労働者は,法的にいつでも退職をすることが可能です(※4)。
この場合,退職の意思表示を会社に対して伝えるだけで事足り,会社が退職の意思表示を受け取ってから2週間を経過すると会社を辞めたことになります(※5)。

 つまり,退職は,法的に見た場合,労働者にとって適法なことであり,なおかつ簡単なこと(※6)なのです。
とすると,このような適法であり簡単なことを代行するサービスが流行っているのであれば,自分もそのサービスをやってみようと考える人が出てきてもおかしくはないでしょう。そして,いわゆるブラック企業の労働者のように,退職の意思を伝えることが非常に難しい方々にとって,このサービスは天啓にすら見えるかもしれません。
 つまり,退職代行は,サービス供給のためのハードルが低く,にもかかわらずニーズが高いと思われるサービスだということです。

3 適法行為のサポートは必ずしも適法にはならない

 私は,以前,一般人による適法行為をサポートする事業に関して,知的財産法の分野における裁判例を参照しつつ,論じたことがあります。そこでの結論は,「個人が行えば適法になる行為であっても,第三者が介在することによって(事後的に)違法とされることがあり得る」というものでした。

 ところで,退職代行は,まさに,一般人による適法行為(退職の意思表示をすること)をサポート(代行)する事業に他なりません。とすると,退職代行は,場合により違法となる可能性があります。
新規参入者にとって,違法な退職代行を行うことは不利益でしかありませんし,適法な退職代行であるとしても,労働者にとってより効率的・経済的な方法があるのであれば,労働者のためにもそのような方法を示しておくことが重要です。
 そこで,今回は,新たに退職代行に参入しようとしている人や,退職代行を利用する労働者の視点から,退職代行について検討してみたいと思います。

4 退職代行が違法になり得る場合―新規参入者の視点―

(1)非弁行為の禁止

 日本において,弁護士以外の人(※7)は,報酬を得るために,法律事件に関して和解等の法的な仕事をすることが禁止されています(※8)。
 この非弁行為の禁止規定は,国家資格(※9)を有さない人が紛争に関わることで,その紛争の当事者が不利益を被らないようにするための規定です。注意してほしいのは,非弁行為となるのは「裁判」を行うことだけではないということです(※10)。
 例えば,法律に関する相談に乗ることや契約書の作成,そして隣人トラブルや契約を終了させるための交渉であっても,報酬を得ようとして行えば違法(※11)となります。

 退職代行は,労働契約を終了させる退職の意思表示を労働者に代わってするものです。したがって,特に,退職を巡り,会社との間でトラブルになっている労働者からの依頼を受けて退職代行をする場合には,法律相談や和解交渉と紙一重であり,退職代行の中身を精査しなければ非弁行為として違法になる可能性があるといわざるを得ません。

(2)退職代行が非弁行為となる場合(※12)

 とすると,退職代行が違法にならないようにするために,業者は,少なくとも,報酬を得る対価として,退職に関する法律相談をしたり,退職に関して会社と交渉をしたりしないようにする必要があります。
 つまり,労働者が決定したことを,単に,その人に代わって会社に伝えるだけ(※13)に留める必要があります。業者が,退職「代行」と自称する所以です。したがって,退職代行に参入しようと考えていらっしゃる方々においては,くれぐれも非弁行為にならないように気をつけてもらいたいと思いますし,そのためには,事業を構築する際,事前に弁護士に相談しておくことが肝要でしょう。

5 退職代行を利用するメリット―労働者の視点―

 それでは,適法な退職代行は,労働者にとって「十分に」メリットのあるサービスなのでしょうか。次に,この点について考えてみたいと思います。

(1)退職代行を利用するメリットの検討

 例えば,株式会社ニコイチによると,退職代行を利用するメリットとして,①自分で退職の意思を伝えなくてもいいこと,②即日退職できること,③担当者と顔を合わせることなく退職できること,④親にバレずに退職できること,⑤精神的苦痛から今すぐ解放されること,が明示されています。

 ①は,退職代行という事業からして当然のことであり,これのない退職代行は退職代行たり得ません。とすると,業者に依頼するメリットは②から⑤にあるということになりそうです。そこで,労働者は,これらが弁護士に依頼する場合よりもメリットといえるかどうかを慎重に検討したうえで,自身の状況に応じ,適切なサービスを利用するべきでしょう。

ア 即日退職?
 まず,そもそも,法的に見た場合,即日退職はできないといわざるを得ません。通常,退職の意思表示をしてから14日を経過しなければ退職にはならないからです。
 したがって,②でいう「退職」とは,事実上,仕事に行かなくて良くなるといった意味合いなのでしょう。ですが,法的に退職とならないうちは会社からの命令を受ける立場にあるため,業務の引き継ぎをするために職場に来るよう命じられた場合には出社して働く義務が発生します。
 そして,この命令を拒んだ場合,法的に厳密にいえば,そのときの状況如何によって,退職金を減額されたり,解雇されたりするといった不利益が労働者に生じないとはいえないことに注意が必要です。
 もし,退職に当たって会社から違法な対応をされた場合,即座に対応できるのは弁護士だけです。このような場合には,結局,業者に依頼した後,弁護士に再度依頼することになってしまいます。
イ 担当者と顔を合わせたり,親にバレたりすることなく退職できる?
 次に,③と④は,事実上のものに過ぎないので,確実に会社の担当者と顔を合わせないようにしたり,親に退職したことが伝わらないようにしたりすることを確実にできるわけではありません(※14)。
ウ 精神的苦痛から今すぐ解放される?
 そして,⑤は,確かに,退職の第一声を会社に伝えるという心理的に相当高いハードルを他人が代わってくれる点で,精神的苦痛からの解放になるのかもしれません。
 ですが,会社が退職に関して慰留をしてきたり,退職までの間に引継ぎをするように命令してきたりした場合,業者は会社と交渉をすることができないため,結局は,労働者が自分自身で方向性を考え,対応しなければなりません。

 つまり,労働者は実質的に会社との交渉から逃げることができず,精神的な苦痛から完全に解放されるのは,法的に退職が完了してからということになります。
 弁護士の場合,会社からの慰留や命令についても使者以上の対応ができますし,もし違法なものであれば,まさに弁護士の腕の見せどころといえます。

(2)弁護士に依頼した場合―より大きく精神的苦痛から解放されること―

 以上のとおり,業者に退職代行を依頼した場合,労働者自身がまず始めに会社に対して退職の意思表示をしなくとも良いということにはなりますが,そこを超えると業者が適法に対応できない領域が増えてしまい,結局,労働者は弁護士に対して依頼をするということにならざるを得ません(※15)。
 これに対して,弁護士に対して退職代行を依頼した場合(※16),退職に関する法律相談から会社との交渉まで適法に対応することができ,労働者は会社との交渉から解放され,また,弁護士が労働者の代理人となって労働者の楯(※17)となることもできるため労働者はより大きく精神的な苦痛から解放されるといえます。

(3)弁護士費用はサービスの内容の割に高額で負担感のあるものなのか?

 とすると,業者を利用することのメリットは,弁護士よりも業者の方が安価であるといったことになるのかもしれません。しかし,この点についても,留意が必要でしょう。まず,弁護士は,業者よりも付加価値のあるサービスを提供しているということです。
 弁護士は,業者にはできない様々なサポートを適法に行うことができ,労働者の精神的苦痛をより大きく解放するサービスを提供できることを踏まえての費用になっています。

 次に,弁護士費用をサポートする制度等があります。例えば,労働者の収入が基準以下である等の条件を充たせば,日本司法支援センター(いわゆる法テラス)と契約している弁護士に相談する場合,法律相談料が一定回数無料になる制度がありますし,法テラスと契約している弁護士に依頼するのであれば,まず法テラスが弁護士費用(※18)を一括で立て替えた後に,労働者は法テラスに対して少額ずつ分割で支払っていくことになるという制度もあります。
 労働者が感じる弁護士費用の負担感は小さくなるといえるでしょう。また,法テラスの立替制度を利用することができなかったとしても,弁護士が分割払いを認めてくれることもあります(※19)。さらに,退職に当たり,会社に対して法的に請求することや事実上の要望がない場合には,会社とは交渉せず退職の意思表示だけを弁護士に依頼する(※20)ことで,より費用を抑えることも可能でしょう。

 このように,弁護士の提供するサービスは,業者による退職代行よりも付加価値がありますし,それに対する費用の支払いについても,必ず現金一括前払いになるわけではなく,負担感を押さえて弁護士に依頼することもできます。
 したがって,労働者の方々も,まずは,弁護士と相談をしてみてください。親身になって相談に乗ってくれる弁護士に出会えたとき,その弁護士は,あなたのために全力を尽くしてくれるでしょう。

おわりに

 以上に見てきたとおり,①通常,労働者が会社に退職を伝えてから2週間で辞めることができること,②業者による退職代行は違法となる場合があること,③業者による退職代行では会社との交渉が必要なトラブルを解決できないこと,④弁護士に退職代行を依頼する費用をサポートする制度等があること,が分かっていただけたのではないでしょうか。

 かかり付け医のような存在を目指している弁護士としては,新規参入者の方々には事業を開始する前に弁護士にご相談していただきたいと思いますし,会社を辞められなくて困っている労働者の方々には,退職代行業者という選択肢に加えて,弁護士という選択肢も十分に考慮していただき,皆さまにとってベストな選択をしてほしいと思っています。


※1 例えば,センシエス合同会社の「EXIT」や,株式会社ニコイチによる退職代行サービスなどがあるようです。
※2 もちろん,依頼を受け付けるための通信設備など整える必要があるため,初期投資0ではサービスを開始することはできないでしょう。
※3 日本の会社に正規の労働者として就職する場合,その会社が定年制を定めていることはあるでしょうが,その定年を迎える前に,入社してから何年経ったからその会社の労働者ではなくなるといった契約にはなっていないことがほとんどです。
※4 退職する場合,その理由を明示しなければならないといった法的規制もありません。
※5 民法第627条第1項
※6 実際,退職の意思を伝えられないとか,それを受け付けてくれないという場合はあるでしょう。
※7 行政書士や司法書士,税理士のようないわゆる「士業」と呼ばれる方々は,行政書士法や司法書士法等,それぞれの士業に関する法律によって,一部の法的な仕事を行うことが認められています(弁護士法第72条第1項ただし書き)。
※8 弁護士法第72条第1項本文
※9 基本的な知識や素養を有していることを一般的に担保するものであり,国家資格という制度は,それによって広く国民の方々の利益を保護するものです。
※10 国家資格のない人が関与して紛争の当事者に不利益を与える仕事は,何も裁判に限られないからです。
※11 弁護士法に違反する行為であり,くわえて,懲役2年以下又は300万円以下の罰金を科せられる犯罪行為になります(弁護士法第77条第3号)。
※12 なお,このブログの記載は,弁護士法その他の法律の解釈や実務の運用を保証するものではありません。
※13 これを法的には「使者」といいます。つまり,単なるメッセンジャーということです。
※14 ちなみに,これは権利として会社に請求できる類いのものではないため,弁護士が対応したとしても同様です。ただし,弁護士が介入したことで,会社側も安易な対応はできないと考え,思慮ある行動を採ることがあるという事実上の効果は期待できます。
※15 もちろん,人的・物的設備を整えて24時間対応可能にするといった付加価値があるのであれば,通常,24時間営業はしない弁護士事務所と比べたときのメリットになるでしょう。
※16 この場合,余ほどの特殊な依頼でもしない限り,通常,依頼した弁護士に電話をしたり,メールをしたりするだけで費用が発生することは考えられません。
※17 弁護士が労働者の代理人となった場合,会社側は高をくくった対応をしづらくなるという事実上の効果を期待できます。
※18 法テラスが立て替える費用の総額については,法テラスの決定を待つことになるため,確定的なことはいえませんが,会社に対する金銭的な請求を全く伴わない場合,おそらく20万円は超えないと思われます。正式な額については,法テラスに確認をしていただきたいと思います。
※19 当事務所の場合,弁護士費用を様々な決済手段を用いて支払うこともできます。
※20 この場合,弁護士は,退職の意思表示を伝える以上のことはできませんが,弁護士名入りの書面が届くことで,会社側が下手な対応はできないと身構える事実上の効果を期待できます。